自論②【デザイナーとお客様の間にいる営業担当の腕の見せ所1】

印刷会社、デザイン会社、広告会社といった会社には制作担当(デザインを作る担当)と営業担当がいます。両方を兼任する会社も多くありますが、別の担当の場合、色々と気を付けなければならないことがあります。今回はデキル営業担当がどんなことに気を付けているかを書いてみたいと思います。

まずは基本

新年度に入り、新入社員が入社し少しずつ会社の流れが見えてきます。営業部に配属された社員さんは上司に連れられてお客様や取引業者に挨拶をし始める頃、身なりや姿勢、名刺の出し方など予め勉強されてきたことが実践される機会に触れるようになっていきます。若いうちにやっておくと他の営業担当と差がつくと言えば、

①CM、雑誌、チラシ、ポスターなど日常生活にあふれる広告物をとにかくたくさん見ること。そしてそれらの作り手の意図(コンセプト)を考えること。

②タイポグラフィやキャッチコピーなどの「言葉」のデザインを意識して、新聞や雑誌など切り抜きして、カテゴライズ(季節に分けてみる、インパクトのある言葉を集めてみる、女性向けの商品を扱う宣伝物の書体を集めてみるなど)してファイリングすること。

③グラフィックに関する展示会や展覧会を見に行く。

④本をたくさん読む。

⑤気になるものや風景など写真を撮って、自分は何が良かったのか、気になったのかを考えてみる。

など、要するに自分の中に引き出しをたくさん作る時期なので、その時間を惜しまず自分に時間とお金を投資することが大切なのです。上司や会社の愚痴を言っている暇などないのです。

間に入るということ

どんな業種の営業担当もそうですが、製造担当(制作担当)とお客様の間に入り、両方の声を聞き、うまく案件を運ぶエネルギーとその実力は凄いものだと思います。私は営業も制作もしているので、どちらかと言えば、営業担当の苦労と違うところで苦労します。間に入る苦労はありません。しかし日中打ち合わせや工程管理をしていると、実際時間のかかる制作作業は残業タイムになります。これは管理職だからできることですが、社員でこのような働き方をすると法定労働時間をオーバーします。

営業担当者は制作をしない分、印刷、看板、WEB,映像など自社で扱う商品のことを深く知る必要があり、そのメディアの特性や効果、マーケティングに及ぶいろいろな知識や情報を蓄えることが大切です。それはお客様に対して一番効果的なメディアを提案できるスキルを持たなくてはならないからです。そして、それと同時にお客様の要望を制作担当に正確に速く伝えるスキルを身に付けなければなりません。制作担当は主に職人気質の人間が多いのが特徴です。こだわりを持つ方が制作をする上で大切な事なのです。加えて、印刷工場や看板工場などではさらに長年の経験を積まれた職人さんが多数います。そういう方々とコミュニケーションをとり、円滑に案件を進めなければならないため、言葉を知っていること、伝達能力が高いことが望まれます。

そんな営業担当が「この担当はデキルな~」と思われるためにどんなことに注意していくと良いかいくつか挙げてみます。(弊社のような印刷や看板などを請け負う会社の営業担当を例に挙げます)

①お客様の多くは管理職以上なので、経営者視点で考える力を持っている。

中小・零細企業で会社の売り上げを左右する広告には、主に経営者の家族(主に社長の息子や娘など)が担当することが多いようです。最終決済は社長がするのですが、会社の事、商品の事をよく理解しており、会社の戦略を分かっている上で広告デザインや広告戦略を考えられるのが経営マインドを持つ家族だからです。

②地味なことでも大切にしている。

数字だけが営業の全てではありません。お客様が信頼、信用をしっかり持ってもらえるためには地味な努力や小さな思いやりを大事にすることが不可欠です。お客様はそんな小さな事をしっかり見ています。例えば、看板の設置を済ませたら、その周辺を軽く履き掃除をしておく。お客様のお店でエンドユーザーのお客様がいらっしゃった時は、自分もそのお店の関係者と見られるため、しっかり挨拶する。お客様の会社の玄関では自分の靴以外の履物もそろえる。など、大したことではありませんが、サッとできる姿は美しく、きちんとしている印象があります。こういったことが日常からできるように自社でも気を配る訓練をしましょう。

③お客様との打ち合わせでは抽象的な表現のままにしない。

例えば、あるポスターのデザインを頼まれて、校正をお客様にお見せした時、「もっと白っぽくして欲しい」と言われて、営業担当者はその言葉通り、制作担当に「白っぽくして欲しいそうです」と伝えてはいけません。お客様との打ち合わせの中で、その「白っぽい」の表現はどういう意味をしているのかを探らなければなりません。本当に色を白くして欲しい場合は別ですが、よくあるのが「明るくして欲しい」という意味だったことがあります。その他に、冊子の校正で「ここのカッコを半角にして欲しい」と言われることもあります。行政の印刷物を作る際、多くは数字を半角英数に統一するようになっています。そしてスペースの開け方、改行なども決まっていることが多いようです。この「半角のカッコ」と言っていた意味は、ちょっと難しくて、書体によってはカッコの前後に少しスペースができるものがあります。そういう場合、半角のカッコにすればスペースが縮むと思い、上記のようにご指示をいただくことがあります。

その他に、きれい、激しい、かわいい、暗い、などの形容詞はお客様のイメージとこちらのイメージが食い違うことがあります。お互いの脳の中に同じイメージが生まれるまで、具体的な話をしていくことが重要です。お客様はパっと見た印象を感じたまま言葉にします。それは、人それぞれ違うのでそのまま受け止めてしまうと校正のやりとりが多くなり、終いには言っても分かってもらえないという印象を持たれてしまう可能性があります。

例えばこんなチラシに対してお客様が「もう少し夏っぽい感じで美味しそうに見えるようにして欲しい」と言われたらどうしますか?滝の写真だし、夏だから赤文字で目立って良いと思うんだけどな~なんて思いながらどうしたら良いか分からなくなってしまうと思います。

ポイントは「夏っぽい感じ」という言葉でお客様は何を言いたいのか!?

おそらく、おざら(ほうとうの麺を冷たい出汁で食べる山梨郷土料理です)を美味しそうに見せるために涼しさを表現することで夏らしさを出してくれということなのです。そこでこんな風に変更しました。

お客様は本当のことを言ってくれません。私たちほど色や明度、表現方法などに関して種類があることを知らないからです。当たり前です。だからお客様の思いや考えを引き出す力が必要なのです。そして、正確に(言われた言葉をそのまま伝えるのではなく、お客様と制作担当の両者が同じ考えのもとに情報が行き交うこと)伝達するスキルを身に付けることが大切です。

④会社の経費の中で広告費がどの位置なのかを知っておく

経営者や営業の研修会などで業績を上げるための戦略を考える時、鉄則はまず無駄なコストを削減すること。それから売り上げを伸ばすことが順序だと言われます。無駄なコストには光熱費や交際費などが挙げられますが、中でも広告費も対象にされることが多いのです。そういう観点から考えると、お客様によく「できるだけ安く」とか「予算〇〇円内でできる方法を教えて」など金額優先で広告の効果や価値を二の次にして広告を打とうとする方が多いと感じます。

そこで営業担当が陥るのは、「値下げ」という誘惑です。意味のある値下げと無意味な値下げがあります。意味のある値下げは営業担当の力量によるものなのですが、リピートにつながる、紹介につながるなど何か利点があっての駆け引きから生まれる値下げです。しかし、無意味な値下げとはほとんどが営業担当の感情が元となり、目の前の案件受注しか頭になかったり、お客様の顔色を伺い良く思われたいだとか、安易な見積もりでほとんど利益を考えず値下げをしてしまうのです。これは、会社にとって良くないことです。その案件の価値を下げてしまい、制作担当が心を込めて作ったものでも安価なイメージしか持ってもらえません。また簡単に値下げすると何度も値下げのスパイラルに陥ります。そして、やはり会社全体の事を考えるならば、そんなに簡単に値下げはできないものです。

それでは、お客様のために何ができるかと考えますとあらゆる情報や技術を駆使してお客様に適したメディアを提案することです。お客様が「3万枚折り込みチラシを打ちたい、でも安い紙で何とか費用をおさえたい」と言われたとします。その際、印刷費など原価をおさえる方法を考えることもしますが、それと同時にその折り込みがお客様にとって効果的な広告なのかを考えます。もしあまり効果的ではないと思うならば、一度違うメディアを提案してみることも大切です。押しつけはいけませんが、お客様の立場になって仕事をすることが前提なのです。

まだまだお話がありますのでこの続きは、、、

自論②【デザイナーとお客様の間にいる営業担当の腕の見せ所2】で。