もう10年以上も前になりますが、私は美大生でした。当時、映画で3DやCGの手法がどんどん進化している頃でした。映像編集の授業でマトリックスの撮影方法やピクサーのCGアニメの製作現場の様子を学びそれはもう楽しいことばかりでした。そんな美大へ入るためには、とにかく絵の練習をしたものです。美大に入るためにどんなことをしたのかちょっとだけお話したいと思います。
基本から(デッサン)
高校1年の時にまず描いたものはこんな石膏でした。
イエス・キリストの顔だそうです。これが壁にかけられていて、この石膏を木炭と食パンで描きます。細い棒きれのような木炭をえんぴつ代わりに使い、食パンを練り消しのように指でよくこねて消しゴム代わりに使うのです。これは「面取りデッサン」というもので、造形物の明暗を面でとらえて形をつくりあげていく勉強です。まずは形を正確にとらえて、それを忠実に再現できる力を養うのです。
次に木炭で何枚かいろんな石膏を描いていきます。
高校3年生になるといよいよデザイン系に進むのか、油絵、日本画などの芸術系に進むのかに分かれると練習するものが人によって違ってきます。
私はグラフィックデザイン科志望だったので、鉛筆で石膏を描く練習がはじまりました。何体も描きました。その後静物デッサンや自画像、モデルデッサン、手や足などいろんなものをひたすら練習します。
鉛筆はステッドラーかユニを使う傾向があります。私は最初ステッドラーを使っていましたが、濃い黒がうまく出ていなくて、ユニに変えました。ステッドラーに比べユニは芯が柔らかく、筆圧を強くすればその分、黒がより濃く出るからです。
それにしても最近美大受験生の絵を見るとレベルが違うと感じました。
上手な人は世の中にたくさんいます!!
無機物(工業製品など)のデッサンは私は好きでしたが、手や足、植物などの有機物のデッサンはあまり得意ではありませんでした。無機物は構造を捉えればだいたい形がわかります。分かれば描きやすいのですが、有機物は構造が複雑でそれを捉える前につい表面的に(外形のみ)を描いてしまうことがよくありました。
そこで、私は自分の手をひたすら描く練習をしました。その時、まずは骨組みを頭に入れて、5本の指はそれぞれどのように動くのかを観察しました。
(勉強に使った資料です)
たまにアニメ漫画を見ますと、こういった構造をしっかり捉えていない漫画があります。デフォルメと違って、明らかに「絵が描けていないな」と思うものもあります。
と言いつつも、私も形を捉えることができず瞬時に絵が描けるタイプではありません。よく「ちょっと△△描いて!」と要求されることがありますが、上手ではないのであまり期待に答えられません。特に人の似顔絵は描けません!似顔絵師の方は瞬時にそのお客様の特徴と雰囲気を絵に興し、お客様が満足するものに仕上げる仕事です。本当にスゴイと思います!
「瞬時に形を捉える」練習として、私は動物園に行きました。そこで5秒以内に描く練習をしてました。
(恥ずかしいですが、その時のクロッキー帳が出てきたので載せたいと思います。)
基本から(平面構成)
デッサンと同時に「平面構成」というものもします。これはアクリルガッシュもしくはポスターカラーという絵の具を使って描きます。
全部で何色あるのか分かりませんが、とにかく受験生はたくさんの色を持っています。(少しずつ知らない間に増えていくのです。)浪人生になると、だんだん自分の使う色が決まってくるので、持ち歩く色数も少なくなってきます。私は特にアクリルガッシュを使っていました。ポスターカラーは塗った後その色の上から別の色を塗ると色が溶けて混ざってしまいますが、アクリルガッシュは一旦塗ると、乾けばその上から何度でも色を塗ることができるものです。
「平面構成」はカラーバランス、トーン、表現方法などを学びます。今ではパソコンでクリック一つで描ける円、線、面を筆やものさしやコンパスなどの道具を使ってきれいに描ける練習をしました。
まっすぐに、ぶれずに、線幅も均等に引く線は、30cmのものさし(溝がある)と溝引き棒(ガラス棒)と筆で描きます。
円はコンパスで描きますが、そのコンパスに烏口という道具をつけて描きます。
烏口とはその名のとおり烏のクチバシのような形をした部分へインクを入れて使うものです。万年筆を使ったことがある人は分かると思いますが、最初、慣れてない頃はインクがボタっと垂れてしまったり、線の太さが均等にならないので、難しいのですが、何度も練習してくると上手に円が描けるようになります。
上記のカラフルな絵は私が受験生時代に描いたものですが、構成計画から始まり最後仕上がるまで3日かかりました。(未熟だったので)しかし、いまではパソコンで1時間もあれば作れる図柄です。
現在美大では上記のようなアナログな道具による勉強をしているのか分かりませんが、私はやってて良かったと思います。パソコンという道具が急速な進歩で身近に使えるようになり、簡単にイラストが描けたり、写真加工ができます。しかし、その本質をしっかり身につけた上でデザインをすることは自分の作り上げるものに説得力を持たせることだけでなく、無駄なものを入れずに作ることができるのです。